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2011.5.23

“あくまでも専用”

「上布」

 『上布』とは、偶然出会った。日本橋の新潟物産館を冷やかしているとき、ちょうど越後の織物展をやっていた。着物に特別興味があるわけではないのだけれど、仕事柄、絹や綿など天然素材には興味があった。そこに『上布』が展示されていた。麻の中でも苧麻と呼ばれる種類の糸で織られているという『上布』は、今までの麻の認識には無い糸の細さと、ロウを引いたような艶に驚いた。裏が透けて見えるほどの繊細な生地だった。販売もしていると言うので、冗談で値段を聞いてみたら着尺で350万だと言う。それでも、産地直だから割安になっていて500万もざらだと言われた。一緒に展示されていた高級絹織物とも比較にならない高値だった。
 興味を持っていろいろ文献資料などを調べてみると、『上布』は江戸時代には大名や金持ち商人が着る最高級の夏の着尺で、その当時でも絹の数倍しているものがあったようだ。
 『上布』がなぜそれほど高いのかは、その生地づくりの工程にある。先ずは“青苧”(あおそ)。苧麻の皮をはぎ、繊維だけにして乾燥させたもの。次は“苧績み”(ううみ)。青苧を水に浸して柔らかくしてから爪で裂き、撚り継ぎながら極細の糸にしていく。そして“撚りかけ”。糸に撚りをかけることで弾力をもたらせ、機に耐えられる強さにする。ここまで100日程、気の遠くなる手作業でつくられた糸は、座ってやる昔ながらの“いざり機”で手織りされていくが、ベテランでも一反織るのに2〜3ヶ月はゆうにかかると言われる。織りあがった生地は最後に雪の上で晒され、白さを際立たせ、繊維を柔らかくして、独特のしなやかな着心地を生み出すと言うのだ。
 『越後上布』の産地は、豪雪地帯で有名な南魚沼地方。米どころの農家も長い冬を雪に閉ざされる。その期間、農家の主婦の仕事として盛んだった上布づくりも、その大変な作業に後継者が育たず、今では限られた幻の素材になっている。
 こんな『上布』一度は着てみたいものだとは思ったが、あまりにも現実的ではない値段と、着物の生活の可能性はほとんど考えられないことから、あっさりとあきらめた。
 それでも、『上布』の一端でも味わってみようと思い、今回、『ファイン・ラミー』のシャツを作ってみた。原料は同じ苧麻。苧麻とラミーは同じもの。とはいえ、手裂きでも手績みでも無く、機械の手で作られたもの。織りももちろん機械織り。だが、出来上がったシャツは、やはり並のリネン(麻)で作られたシャツとは違う。繊維長の長い細い糸は強い張り腰を生んでいて、体に張り付く感じが無い。薄さゆえに体の外でひらひらしている。艶のある糸も品があってよろしい。
 節電も合わせて、厳しい暑さに耐えなければならない今年の夏。先人の知恵の一端が役に立ってくれればと思う。


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