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2012.2.21

“結露のいたずら”

「フェチ」

 我が家には数台の“ロールス”がある。ロールスと言っても、もちろん車のロールスロイスではない。自転車のサドルの“ロールス”というもの。イタリアのサドルメーカー“サンマルコ”の名品サドルのことである。1935年創業の“サンマルコ”はいまだにサドル界の王者に君臨している。革製品、家具の歴史とも関連があるのか、トップのレーサー用サドルブランドはイタリアばかりだ。
 80年代にレースの世界を席巻した“ロールス”は未だに作り続けけられている。ロードレーサーは、軽さと強度を追求して、その進歩と変化は目覚しく、フレームもパーツも軽合金とカーボンの世界だ。サドルももちろん超軽量化が進んで、カーボンのシート一枚仕立てなんていうのまである。私も、レーサーデビューした頃は、軽量を基準にサドルを選んで乗っていた。ところが、それは拷問の世界だった。歳を取ってくると腹の周りにはふんだんに肉が付いてくるのに、尻の肉はげっそりと落ちている。その肉の無い尻の骨が硬いシートに押し付けられて、とてつもない痛さとなる。そんな時に出会ったのが“ロールス”だ。今となっては結構な重量で、表に張った皮は厚く、硬いクッションが分厚く入っている。決してママチャリのサドルのように柔らかいわけではなく、座り始めは硬さを感じる。それが長く乗っていると、尻の骨と馴染んできて、こうなると重さのことを忘れて、もう離せなくなる。ツール・ド・フランスの英雄、イノーが時代遅れも重さも無視してこの“ロールス”を使い続けたのも、むべなるかな、である。
 サドルは、人と自転車が一番密接に繋がる部分であり、乗る人間の体型や癖を受け取る道具なのである。それを材質や数値だけでは表せられる訳が無い。出会いと相性と愛の育みなのである。そんなことで、私の何台かある自転車のサドルは全て“ロールス”だ。
本来、自分の尻に合うサドルが“ロールス”だけというわけは無い、もっと相性の良い奴が広い世界には居るに違いが無いのだが、どうも浮気する気が起きない。若さと冒険心がなくなったといわれればその通りなのだ。
 ところで、そんな“ロールス”、付ける自転車の台数よりちょっと増えてしまった。日頃“ロールス”好きを標榜していると、古い“ロールス”を譲ってくれる人がいる。昔の“ロールス”は、貼ってある皮の質が良く、使い込まれた深い味わいがある。それにしても、他人に愛され、その人の体の一部ともなったサドル、どのように使ったらよいものか、ただ、眺めたり撫でたりしているのも、気味が悪く見えるかも。


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