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2012.9.4

“バイタリティー”

「シンプル」

 私はデザイナーという肩書きを使っているのに、いわゆる世間で言うファッションデザイナーと思われると、なぜかそぐわなくてこそばゆい。ファッション画を描くわけでもないし、流行を意識することも無い。もともとスポーツウエアの出身だから、デザインは使い道や機能性などを理屈で考えて、感性は小さじ程度だ。それでも、ビアスポの仕事にはそれが幸いして評価をいただける商品が作り出せていると思っている。そんな仕事の中で自他共に「シンプル」をコンセプトにしていると認識していたのだが。
 こんな本を見つけてしまった。原 研哉著「日本のデザイン」、岩波新書である。岩波新書を買うのも珍しいが、タイトルのデザインの言葉にデザイナー心がひきつけられた。超一流のデザイナー原 研哉は文章も超一流であった。この本は、日本人の持つ美意識が日本の未来ひいては人類の未来に役立てるものがあることを説いているのだ。その中でキーワードとなる言葉で「シンプル」が分析される。「シンプル」はそれ自体で成立するものではなく、複雑の対極として存在する。人類は世界を「力」によって統治して、その表象としての文化も「力」を表現する物は「複雑」でなくてはならず、「簡素」はありえなかった。今では世界のあり方がピラミッド型の力の統治から、自由な個人の集合という形へ変化するとともに、「シンプル」もデザインのテーマになるようになったのだ。そして、日本では世界に先駆けて、武士の時代「室町」辺りからこの「シンプル」を美意識として持ち始めたと言う。ところが、ここでいうシンプルは複雑に対峙する簡素ではなく、力をたたえている「簡素さ」で、シンプルとは本質的に違う言うなれば「エンプティ」つまり空っぽなのだと言うのだ。書院づくりや作庭、茶道、生け花、などをイメージすれば分かるように、物そのものより空間の余白に緊張感を生み出し、そこに美を感じる。この日本文化の美意識の底流にある「簡素さ」は単なる「シンプル」を超えて、世界をリードする美意識となりうると説いている。
 このあと、著者は物やこと様々な分野で日本人のこの美意識の可能性を展開していくのである。

 さてさて、大変なことになってきたぞ。「シンプル」「シンプル」とあまりにも簡単に使ってきたが、こんなに深いとは。自分自身の中にも日本人の美意識は何かしら流れているのだろうとは思うものの、人類の未来を支えるものを生み出しているという意識までは。とはいえ、考えすぎて重い物を作ってしまってもいけないし、背伸びして自分の能力を過信することも出来ないし。出来ることは、ごちゃごちゃした頭の中をもう少し「シンプル」にすることかもしれない。


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