[本日の写真]

2014.11.26

“これは捨て置けぬ、愚かな”

「ベースキャンプジャケット」

 1999年、世界的なニュースとして、英国の登山家ジョージ・マロリーが75年ぶりにエヴェレストで発見されたというのは覚えていたが。それから何年か経って、LIFEのグラフ誌で彼の白蝋化した死体の写真を見て改めて衝撃を受けた。
 その本は『The Greatest Adventures of All Time』と言うタイトルで、海と陸、世界の極地の探検記とその時の貴重な写真による『LIFE』の特集号である。その中で、エヴェレストを最初に登頂したかもしれない英国マロリー隊の記事の中にその写真はあった。1924年、サンディー・アーバインとともに頂上を目指したジョージ・マロリーは、戻ってくることは無く、登頂の成否も謎のままであった。そのマロリーの遺体が8200メーター近くの斜面で見つかった。その姿は75年も経つとは信じがたいしっかりとした原型を保っている。さすがに風雪で衣服は剥ぎ取られて、ロープを腰に巻きつけ、鋲を打った皮の登山靴が足元にあり、頭を頂上に向けうつ伏せで横たわっている。ポケットには登山用サングラスに壊れた高度計、それにポケットナイフ。登頂したら頂上へ置いてくることになっていた妻の写真を持っていなかったことから、いまだに登頂成功したのではと言う説もあるが、全ては謎の中だ。
 この記事の中にもうひとつ興味深い写真が載っている。それはマロリー隊全隊員9名がベースキャンプで撮った集合写真だ。登頂の成功を信じている若者たちの生気あふれる素晴らしい写真だ。私がこの写真の中で注目したのは彼らの服装。マロリーはじめツイードのジャケットを着ているのが3人、そのほかは綿のカバーオールのようなものを着ている。パンツはほぼ全員が綿のようだ。ベースキャンプとは言え6000メーターは超えるであろう。
現在ならば科学された合成繊維の超高機能ウエアリングで身を守ろうとするところが、綿とウール。それも英国紳士の品位を崩さないものなのだ。酸素ボンベを背負った登頂前のマロリーの写真を見ても、このスタイルがベースで、マフラー、毛皮の帽子、手袋が加わるぐらいだ。やはり現代と比べると格段の差がある過酷な冒険だったと言えよう。
 ところで、“冒険”と気軽に使うことが多いが、冒険とは何なのか。文字からすると険しきを冒す。英語のADOVENTUREからすると山師的な意味も加わる。命を懸けて危ないことをする。その危ないこととは、人間がそれまで経験したことの無い未知の体験に挑むことなのだろう。それは高さであり深さであり距離であり、寒さであり暑さであり、スピードであったりすることで、人間の未知の領域への挑戦であって、人の根源的な欲求に突き動かされてなされるものと思う。
 そして冒険者とは、その根源的な欲求が強烈に強い性格の持ち主であり、そして何よりも図抜けた体力と精神力を持つ超アスリートと言うべき存在だ。我々は日常的にスポーツを通してアスリートに憧れ、感動を貰うが、冒険者は、我々が挑戦を考えることすらありえないエリート中のエリートである。我々は、彼らの夢の中に自分の夢を見、彼らの挑戦に絶大なる畏敬を覚えるのだ。


[ARCHIVE]

「国立競技場」「忘れられた巨人」「夫唱不随」「映画『コーヒーをめぐる冒険』」
(2015-07-22) (2015-06-23) (2015-06-01) (2015-05-02)
「素材ミックス」「怖い顔」「高梨沙羅」「食べる」
(2015-04-15) (2015-03-18) (2015-02-24) (2015-02-10)
「オイルド」「八戸」「ベースキャンプジャケット」「赤瀬川原平さんを悼む」
(2015-01-14) (2014-12-15) (2014-11-26) (2014-11-01)
「水漏れ顛末記」「映画『リスボンに誘われて』」「電動アシストつき自転車」「映画 最強のふたり」
(2014-10-14) (2014-09-30) (2014-09-17) (2014-09-03)
「戦争」「京都の平熱」「ブラジルW杯」「タイプライタークロス」
(2014-08-19) (2014-07-26) (2014-07-15) (2014-06-24)
123456次のページへ>>
351件中: 1から 20件

● この「デザイナーズルーム」へのご意見、ご質問のある方は下記のアドレスへE-mailをお送りください。
デザイナー 武捨光晶/musha@mvj.biglobe.ne.jp

株式会社ビアスポ beaspo@mua.biglobe.ne.jp
Copyright(C)2012 beaspo Corp. All rights reserved