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2015.1.14

“売り物ばかり”

「オイルド」

 長年気になっていたコートを馴染の古着屋で手に入れた。『Barbour』 のオイルドコートである。スポーツウエアを専業とし、アウトドアウエアをデザインする立場としては、何をいまさらと、突っ込まれそうなことである。それほど世界的に有名なブランドであり商品であるのだ。
 『Barbour』は、イギリスの北東部、北海に面した雨風の厳しい地域に生まれた。その厳しい環境の中で活動する軍隊や漁業などの労働者を守るためのウエア素材として、綿布に特殊なオイルを沁みこませたオイルド・コットンを開発した。130年以上前、未だ化学製品のコーティングなど発明される、はるかに昔のことである。油で水をはじいてやればよいという考えは、画期的なことだっただろう。その後、フィッシングやハンティング用として貴族などのスノッブに愛されるようなり、英国王室御用達にもなっている。最近では、本来の機能性を差し置いて、ファッションとして街着にするのがオシャレなどといわれるようになっている。
 さて、手に入れたコート。やはり、その素材感は特別だ。織物に油を沁みこませると、それはもう布ではない。皮に近い滑り感になり、強度を感じさせる。アウトドアで使用し、特にオートバイ用などに長年使用していくうち、土埃なども取り込んで、こすれた表面はてかり、織物のテクスチャーなど見えなくなっていく。そこまで行くと自分の体の一部として捨てきれない愛着がわいてくるのだろう。このコートはそれほど使い込まれてはいないので、着込んで自分の愛着を持てそうではあるけれど、気になることがある。くさいのだ。オイルの匂いだといえばそうなのだが、記憶にある匂いでもある。その記憶とは汗とカビ。長期遠征の登山隊の匂いなのだ。我慢できないほどではないのだが、洗濯しようかと、取扱い表示を見るとビックリ。洗濯してはいけない、スポンジに水を含ませてやさしくふくだけ。その時ぬるま湯でもダメ。車や電車にも乗らないように、熱いもののそばに置くな、きれいなものと一緒に着るな、置くときは裏返して置くように。いったいどこで使えばよいのだ。そう、このコートは街で使うのは大間違い。人里離れた荒野の中で使うためにできているのだから。
 妻には「くさいからそばによるな」「迷惑になるから外に着ていかないよう」に言われるが、仕事柄、経験をしておかなければならないからと、ここのところしばしこれを着ている。しかも電車利用の時が多いようだ。気が付くと周りの人が少し距離を置いているようだ。こちらは、座席にゆったり座れるとうそぶいて、顰蹙をまき散らしている。


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