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2015.6.1

“ここなら良いのか”

「夫唱不随」

 古い自転車のレストア(ちょっと大げさ、分解したり磨いたりしている)をしていると、なにやら物語のありそうな自転車が手に入ることがある。
 古い自転車を手に入れるときは、フレームやパーツをバラバラで手に入れることが多いのだが、そのピンクの自転車は、完成車で手に入れた。クロモリという鉄の合金の細いパイプで出来たフレーム製で、サイズが小さく、小さめの女性が乗っていたようだ。NOネームなのだが、フレームのディテールの作りに凝ったところが多く、腕の良いビルダーのオーダー品のようだ。パーツはほぼ国産だが上級機種で組まれていた。そのなかで一箇所フランス製のお宝がクランクだ。何故ここだけと調べていくと、つけられているチェーンリングが考えられないほど小さい。チェーンリングの大きさは、この当時のロードレーサーの標準では52T。これはギアの歯の数で、数が多くなるほどスピードが出せるが重くなる。今では初心者や非力者には48Tも標準で採用されるようになったが、ひとつ違いで漕ぎ心地は大きく違う。それが、この自転車には40Tが付いているではないか。確かに、このギアをつけられるのは、このフランスのお宝しか無かったのかもしれない。
 この自転車を手に入れたときの売主のコメントを思い出す。「妻と自転車でヨーロッパ旅行をしたときに使って、その後は未使用に近い」と書いてあった。実際、きれいで使用が少ないことはわかるのだが、フレームに数箇所大きな傷があった。これは、ホイールを外して輪行する時の傷なのだろう。残念だが、だから格安で手に入れることが出来たともいえる。
 この夫婦は想像でしかないが、小柄で非力な奥さんの熟年夫婦ではあるまいか。若ければここまで非力仕様にすることも無いだろうし、ここまでの経済力も無いだろう。長年自転車を趣味にしているご亭主が、それまで趣味を共有してくれない妻に、ヨーロッパ旅行と言う魅力的な餌をつけてこの自転車旅行を実現させたのだ。常日頃、「自転車はママチャリで十分」と言う妻に「ママチャリとロードレーサーは全く別な乗り物で、乗ったらどれだけ気持ちが良くって楽しいよ」と言い続けてきたことがこれで証明できると、旅行の夢と希望は膨らむ一方だったことだろう。ところが、その夢と希望は打ち砕かれたに違いない。自転車は乗っていて楽しい時もあっただろうが、きつい上り坂、強い向かい風、冷たい雨、遅い夜の宿探し。それも含めて自転車は楽しいと思える人間と、そうではない人間とは完全に違う人種なのだ。
 「ご亭主、あなたの気持ちは、良ーく解るよ。自転車に限らず、この問題は永遠に解決不能だ。『夫唱婦随』は死語。『夫唱不随』と肝に銘じよう」。


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